「恋愛関係より親友になる方が難しい」幸せな夫婦生活には男女を越えた友情が大事
独身研究家の荒川和久氏によると、日本では戦後から2000年ごろまで夫婦のみの世帯、夫婦とその子供からなる世帯、ひとり親と子供からなる世帯などが全世帯の約70パーセントを占めており、単身世帯率は27.6パーセントでした。
しかし、単身世帯率は2010年で32.4パーセントまで増え、2035年には37.2パーセントまで拡大すると考えられており、3人に1人が生涯未婚として生きる時代がくると予想されています。全世帯のうち、常に30〜40パーセントを占めていた夫婦と子供からなる世帯は単身世帯に数が逆転され始め、単身者が日本の“標準”に成り代わろうとしているのです。(1)
内閣府が2014年12月〜15年1月にかけて全国の20代と30代の男女7000人を対象に行った結婚・家族形成に関する意識調査
によると、現在恋人がいない人は男女ともに35パーセントを超えており、恋人が欲しくない理由について最も多くあげられていたのが「恋愛が面倒」という回答で、今の男女は恋愛ができないのではなく、あえて恋愛をしたがらない傾向にあるのは確かでしょう。
↑恋愛ができないのではなく、あえて恋愛をしない
生活者のインサイトを得るための共創コミュニティをデザイン・運営する堀好伸氏によると、現在26歳以下の男性で彼女のいる人が、恋愛より優先するものはないと彼女をすごく大事にする一方で、彼女がいない男性は恋愛より趣味、お金そして一人の時間を優先し、恋愛より他にしたいことがあるのだそうです。(2)
また、フリーランス編集者でライターの速水健朗氏は、2015年に30歳になる1985年生まれの人たちよりも若い世代は、お得さを自分だけではなく友トクとして友達のためになるよう、積極的に行動すると表現しています。
そんな彼らには「本気で恋愛しようとすれば、自分らしさのぶつけ合いになるし、信じた人に裏切られるかも知れない。その結果、傷つく、というリスクを冒してまで、恋愛はしたくない。リアルでの人のつながりは、もっとゆるくていいし、恋愛はバーチャルでもいい」という本音があるのです。(3)
↑本気で恋愛して傷つくくらいなら、恋愛はバーチャルでもいい
インターネットやSNSのなかった頃、友達というのは高校時代、大学時代、社会人時代の友達という風にライフステージごとに区切られ、再会する度に懐かしむような感じがありました。しかし、SNSによって友達みんながつながっている今日では、例えば、告白して振られることや、付き合って別れるなどといったプライベートな情報は友達の間にすぐさま伝達されてしまいます。そのような環境では「結婚するくらいの覚悟がないと、つき合えない」という男性が少なくありません。(4)
世代・トレンド評論家としても活躍する牛窪恵氏によると、これだけ恋愛に対して低体温の若者が増えているにもかかわらず、彼らの9割近くが「いずれ結婚するつもり」だと結婚には前向きでいるそうで、中には恋愛のステップを飛ばして結婚したいと考える人もおり、恋愛は結婚相手を探すためのものと考える独身男女が多いことは明らかです。(5)
↑結婚するくらいの覚悟がなければ付き合えない
今の若い人たちはマスメディアや企業が発信している情報ではなく、より自分のプロフィールに近い一般人やそのジャンルで自分が共感できる一般人を重んじる側面があり、「中身が大事」という言葉を口にします。自分に合うものが欲しい、結婚前提で付き合いたいと思う今の若い人たちにとって、恋愛も買い物も他人からどう思われるかといった表面的なことは問題ではなく、自分らしくいることが最も大事なことなのです。(7)
現在の20代女性が恋愛を結婚(専業主婦)基準で考えていると示し、20〜30代の未婚女性の結婚したい理由は、子どもが欲しいが1位で、パートナーと一緒にいたいより上だといいます。そして、結婚生活に抱くイメージ(プラス評価)の上位は困ったときに助け合える、家族ぐるみの付き合いができることだと述べていますが、自分らしく自然体でいたいという若者の価値観は理想の結婚生活にも当てはまり、彼らが求めるのは男や女は〇〇でなければならないといったプレッシャーから解放された、一緒にいて気を遣うことのない、心が安らぐ友情のような夫婦関係なのでしょう。(8)
↑理想の結婚生活は恋愛感情ではなく友情を感じられる夫婦関係
ワシントン大学の心理学教授で、シアトル結婚・家族研究所の所長でもあるジョン・ゴッドマン博士は、16年間にわたり、千数組の夫婦を面接し、そのうち650組の夫婦を14年間に渡って追跡調査を行いました。
博士の研究結界によると、幸福な結婚をしている夫婦は決して完璧な関係を築いているわけではなく、二人の間には気性、興味、そして価値観の大きな違いがあり、夫婦の衝突も頻繁にあるそうですが、それにもかかわらず彼らが幸福な結婚を維持している背景には、互いに「友情の果たす役割を深く理解している」ことが影響しているのだと述べています。(9)
↑幸福な結婚だからといって夫婦喧嘩をしないわけではない
多くの夫婦は月日が経つにつれて互いへの恋愛感情が薄れ、特に赤ちゃんの誕生や失業などのライフイベントによって心のつながりが細くなりますが、ゴッドマン博士によると、赤ちゃんが生まれてから夫婦の仲が良くなったケースもあるそうです。
博士は、たとえ赤ちゃんが生まれても両親としての夫婦の絆を強めるためには、夫と妻がチームとしての一体感を持てるよう夫婦の間に友情を築き上げることが大切であり、夫婦間に友情があれば、夫も妻と同じように親としての自覚が持ちやすくなるとし、次のように述べています。(10)
「妻を昔の女性に戻すことはできない。夫は妻が達した新しい心境に自分から入っていくことだ。これだけが、結婚生活を満たす唯一の方法である。妻と同じ心境に達した夫は赤ちゃんに嫉妬を覚えない。彼は夫であると同時に父親としての誇りと、子どもに対する愛情と子どもを守ろうとする意識に燃える。」
↑赤ちゃんが生まれた後の夫婦仲の秘訣は、夫が変化を受け入れること
米プリンストン大学とストーニーブルック大学の研究チームは、子どものいる夫婦といない夫婦で、どちらの方が幸福度が高いのかという調査をした結果、収入や教育、健康状態といった要因を除けば、子どもがいるかいないかで人生の満足度にはほとんど差がないという結果となったものの、唯一違いがあったのは、子どもを持つ夫婦の方が人生において大きな浮き沈みを経験しがちという部分で、子どものいる夫婦は人生の喜びが多い一方、ストレスや負の感情も多いということを発表しました。
働く夫と家を守る妻というように役割がわかりやすく決まっていた性別分業の時代に比べて、現在は共働き体制が本格化するほど夫婦間でいろいろなことを調整しながら生活する必要があります。
↑子供のいる共働き家庭では互いの協力が夫婦円満の秘訣
立命館大学産業社会学部教授の筒井淳也氏によると、多くの先進国が共働き社会に変わっていく中で、従来の夫婦の絆は脆弱化しているそうで、そのような状況を筒井氏は「天国としての家庭と衰退」と表現し、心の癒しであった家族生活はもはや安らぎをもたらすものではなく、家庭の職場化が始まったと考えられるのです。(11)
筒井氏は、家庭への意識が変わることにより、今後結婚生活を送る上で大切なことは一緒にいて楽しいということだと考えていますが、一緒にいて楽しい関係とは、特定の人と関係を続けることによって得られる情緒的な満足があるからこそ維持される関係であり、それは飾りのない自分らしくいられるもので、夫婦が共同生活者として互いに尊敬と喜びを分かち合った時に育まれるものだと思います。(12)
↑幸せな結婚生活で大切なのは、特定の人との間に感じられる情緒的な満足
心理学者のルービン氏は、そもそも愛とは恋愛(LOVE)と好意(LIKE)から成り立っており、友人に対しては好意(LIKE)のみが存在し、恋人に対しては恋愛(LOVE)と好意(LIKE)の両方が存在すると述べています。
一方で、愛情と友情の両方に共通して存在するのが尊敬、信頼や理解といった要素であることも合わせて考えると、愛情というものは友情という土台の上、もしくは友情の先にしか存在できず、強固な愛情を築くには尊敬や信頼に裏打ちされた友情関係が必要ということは明らかです。
中谷塾を主宰し全国でセミナーやワークショップ活動を行う中谷彰宏氏は、恋愛関係と友情について次のように述べています。(13)
「恋愛関係よりも親友のほうが、本当の関係を保つのは難しいのです。恋愛以上に、お互いが高め合う要素がないと親友にはなれません。友情は、ハイレベルな人間関係です。」
恋愛感情は3年で冷めるといいますが、夫婦の間に永続的な恋愛関係が続かないとすれば、その関係を最後に救うのは、男として、そして女としてのジェンダーを超えた、人としての成熟度が必要とされる友情なのかもしれません。
↑夫婦関係の最後の救いは、男女の性を超えた人としての成熟度
女性のほとんどがフルタイムで働くフィンランドは、子供支援の国際NGOセーブ・ザ・チルドレンが発表したお母さんにやさしい国ランキングの2013年、2014年、2015年において、日本が31位、32位、32位であるのに対し、1位、1位、2位のトップ3内に連続で選ばれています。
元々フィンランド語の名詞には性別がなく、彼や彼女といった人を指す場合は両方ともハンという語で表しますが、産休の取得に熱心で、父親と母親が二人合わせて一年分の休暇を取ることができるほどにフィンランドが共働き先進国である背景には、彼や彼女といった性別を超えた言葉を日々使っていることにも関係しているのかもしれません。(14)
↑共働き先進国のフィンランドには「彼」「彼女」を表す名詞がそもそも存在しない
そんなフィンランドの人々にとってフィンランド語で愛してると言うことは、他の言語で言うよりもはるかに重い意味を持ち、無造作に口にする言葉ではないそうで、フィンランドの人々は愛してるという代わりに、例えば夫が洗濯機を修理することで妻に愛情を示しているのです。(15)
夫の家庭への貢献はDIYにとどまらず、妻の代わりにキッチンに立つことも当たり前のフィンランドでは、昔から廊下などの無駄なスペースを省き、キッチン、食卓、そしてリビングまでが廊下や壁で隔てられることなく、どの部屋もひと続きに見せる家づくりが特徴的で、家族は常に互いの顔や出入りを把握しあうことができます。
フィンランドの人々には「比べず、執着せず、自分らしく生きる」という価値観がありますが、その姿勢は無駄のないシンプルな家づくりにも表れていると考えられ、ひとり親や再婚家庭が増え、事実婚のカップルが多いにも関わらず、フィンランドの家庭における幸福度が高い理由は、フィンランドの人々が夫婦や結婚の表面的な形に捉われず、本当に幸せな暮らしの本質に向き合っているからではないでしょうか。
家族が物理的にも精神的にもつながっていられるよう、どの部屋もひと続きにしたフィンランドの家づくりには、今の若い人たちが求める、「自分らしい、中身を大事にする」家族のスタイルがあるのだと思います。
↑「比べず、執着せず、自分らしく生きる」は、家族がつながるフィンランドの家づくりの原点
愛情というものは友情が欠けると成り立たないのであれば、夫婦で育てていくべき感情というのは、一緒にいて楽しいというような友情が一番大切なのかもしれませんが、深い友情のようなハイレベルな関係というのは、ただ単に夫婦同士のフィーリングの問題ではなく、意図的に家や環境をデザインすることで継続できる部分も大きいのではないでしょうか。
現代に生きる私たちが理想とする恋愛よりも家族を基準とした夫婦関係というのは、毎日の中での接点を増やし、月並みで小さいけれども日常生活で互いに感動や共鳴を与え合う機会を重ねることで育まれていくものなのです。
- 参考資料
- (1)荒川和久 「結婚しない男たち 増え続ける未婚男性ソロ男のリアル」 (2015年、株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン) Kindle
- (2)堀好伸 「若者はなぜモノを買わないのか」 (2016年、株式会社青春出版社) P45〜46
- (3)藤本耕平 「つくし世代「新しい若者」の価値観を読む」 (2015年、株式会社光文社) Kindle
- (4)藤本耕平 「つくし世代「新しい若者」の価値観を読む」 (2015年、株式会社光文社) Kindle
- (5)牛窪恵 「恋愛しない若者たち コンビニ化する性とコスパ化する結婚」 (2015年、株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン) Kindle
- (6)藤本耕平 「つくし世代「新しい若者」の価値観を読む」 (2015年、株式会社光文社) Kindle
- (7)堀好伸 「若者はなぜモノを買わないのか」 (2016年、株式会社青春出版社) P68, 86
- (8)牛窪恵 「恋愛しない若者たち コンビニ化する性とコスパ化する結婚」 (2015年、株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン) Kindle
- (9)ジョン・M・ゴッドマン、ナン・シルバー 「結婚生活を成功させる七つの原則」 (2007年、株式会社第三文明堂) P33, 39
- (10)ジョン・M・ゴッドマン、ナン・シルバー 「結婚生活を成功させる七つの原則」 (2007年、株式会社第三文明堂) P240〜241
- (11)筒井淳也 「家族と結婚のこれから 共働き社会の限界」 (2016年、株式会社光文社) Kindle
- (12)筒井淳也 「家族と結婚のこれから 共働き社会の限界」 (2016年、株式会社光文社) Kindle
- (13)中谷彰宏 「大人の友達を作ろう。人性が劇的に変わる人脈術。」 (2002年、PHP研究所) Kindle
- (14)マイケル・ブース 「限りなく完璧に近い人々 なぜ北欧の暮らしは世界一幸せなのか?」 (2016年、株式会社KADOKAWA) Kindle
- (15)マイケル・ブース 「限りなく完璧に近い人々 なぜ北欧の暮らしは世界一幸せなのか?」 (2016年、株式会社KADOKAWA) Kindle