肉体労働しているわけでもなく、分刻みのスケジュールが入っているわけでもない東京の人達が、なぜか心にゆとりを持てない本当の理由

[記事更新日]2017/03/24

普段、都会でせかせかしながら生きている人が、都会を離れ自然の中に身を置いてみると、どこからともなく、いままで考えつかなかったアイデアが浮かんできたりする。そんな話をたまに耳にしますよね。日々、無機質な壁の中で暮らしている私たちは、”自然”と、どのように関わっていけるのでしょうか?

自然から離れるほど、人間は不幸になる

現在、都会でコンクリートのビルに囲まれ、スーツを身にまとって、ハイテク機器を使いこなしているビジネスマンであっても、一万年前にさかのぼれば、すべての人達が大自然の中で暮らす野生人でした。

しかし、2010年の時点で、都市に住む人の割合は先進国で70〜80%に達し、2050年には約90%の人達が都市に住むだろうと予測されていますが、近年、世界中の人達の死や悲しみの原因になっている、心臓疾患、肥満、うつ病、そしてガンは、私たちが自然界の設計を無視して生活してきた代償であり、人間は自然から離れれば離れるほど、不幸になっていくと言います。(1)

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↑人間は自然から離れれば離れるほど不幸になる

実際、都会の生活には変化がなく、いつもエアコンで部屋の温度は同じで、明るさも一定、これでは体の感覚がおかしくなってしまいますが、さらに東京に限っては、通勤電車が想像以上にダメージを与えており、バル=イラン大学で心理学を教えるメニ教授によれば、通勤ラッシュに巻き込まれる人が受けるストレスは、臨戦態勢の戦闘機のパイロットや機動隊員よりも大きいと言われています。

東京に住む人は、別にきつい肉体労働をしているわけではく、売れっ子芸能人のように分刻みでスケジュールが入っているわけではありませんが、なぜか毎日忙しく感じて、心にゆとりがなく、暮らし自体が雑になってしまって、毎日にうるおいがありません。

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↑別に忙しいわけでも、疲れているわけでもないのに、心のゆとりがない

アーバンアウトドアという考え方

キャンプに出かけて、自然の中に身を投じ、3日目の朝を迎えると、自分が普段都会で送っている生活が自然のリズムと合っていないことに嫌でも気付かされます。

それ以外にも、自然の中で食べる食事はいつもより美味しく感じたり、キャンプファイヤーの火を見ると、なぜか今まで秘密にしていたことや悩み事を急に話したくなったという経験は誰にもあると思いますが、 これはバイオフォリアと呼ばれる、生物や自然への愛情が人間のDNAに組み込まれているからであり、エクセター大学の調査では、室内に簡単な植物を置くだけで、幸福度や創造性が47%も上がったと報告されています。(2)


↑キャンプ3日目には、自分と自然界のズレにはっきりと気づく

実際、自分の仕事を全部パソコンに詰めて都会を離れ、毎日キャンプしながら生活をすることが、一番人間らしい生活なのかもしれませんが、恐らくそれができるのは、日本中でもごく一部の限られた人達だけでしょう。

アップルも企業見学に来ると言われる、アウトドア・ブランドのスノーピークは「アーバン・アウトドア」という概念を考え出し、都市空間の中でも人と自然を繋ぐアクションを積極的に起こしていますが、例えば、都会にあるマンションをひとつ取ってみても、工夫仕方次第では、都会にいながらキャンプ場の空気を感じ、人と自然が繋がることで、人間性を回復させていくことは十分できるのかもしれません。


↑アーバン・アウトドア「工夫次第では都会のマンションをキャンプ場化できる」

アーバン・アウトドアのコンセプトは特別なキャンプ場にいかなければ味わえない経験を、もっと日常的に体験するもので、従来の日本のマンションにある「◯LDK」という概念を取っ払い、部屋の区切りを無くしたり、キャンプ用の家具や食器などを設置して、自然の中の雰囲気をマンションの中に作り出し、そこで呼吸できる喜びや飲むコーヒーの美味しさなど、生きていることの実感を再度認識できるような概念を基に、住居を設計していきます。

もともと日本人の9割は農民の子孫ですが、もしかすると農民のDNAを持っている私たちが、都会のビルの中に押し込まれて生活していること自体、どこかおかしいのかもしれません。(3)


↑農民のDNAを持つ日本人が、自然がない環境で生活していること自体がおかしい

リラックスをするということ

ITやお金の特徴は、自分に代わって物事を処理してくれるかわりに、驚きや楽しみを奪ってしまうことにありますが、もしかすると私たちは、物事を効率化して生み出した時間を結局また仕事に使ってしまい、自然から離れた人間らしくない生活をする時間が、また多くなってしまっているだけなのかもしれません。

元NHKアナウンサーで現在はエッセイストの下重暁子さんは、著書「持たない暮らし」の中で次のように述べています。(4)

「日本では、お風呂も勝手にお湯が入って、満杯になれば、自動で止まるか、“お風呂が沸きました”と教えてくれる。炊飯器だって、“ご飯が炊き上がりました”といちいちアナウンスする。そのたびに私は“うるさい!”と怒鳴っている。無駄な音声が多すぎるし、何もかも自動になってくると、確かに便利ではあるが、慣れてしまうと、もともと人間がもっていた感覚を失って、機械に頼るようになってしまう。」

「ご飯は何分で炊けるか。お湯はどのくらいで沸くか。私達の持っていた感覚はどんどん鈍っていく。これ以上の効率化、便利さなど必要ない。ヨーロッパの人々はそれを知っていて、頑固に守っている。そのことがどんなに大切か。古きよきものを大事にすることは、人間本来の感性を豊かにすることだ。」

↑ITとお金は便利さと引き換えに、「喜び」や「驚き」を奪う

また、近年さまざまなビジネスの現場で「イノベーション」や「クリエイティビティ」という言葉が飛び交いますが、前例のない革新的なアイデアというのは、もの凄い時間をかけて努力した後に、のんびり自然の中でリラックしたり、ゆっくりと料理をするなどして、積極的に脳の中に「余白」を作ることで、無意識に頭の中に湧いてくるものだと言います。

ハリーポッターの著者、J・K・ローリングは、1990年の夏にマンチェスターからロンドンに向かう4時間遅れた列車の中で、ハリーポッターのアイデアを思いついた時のことを次のように述べています。(5)

「そのアイデアは、どこからやって来たのか見当もつきません。でも、とにかくやって来たのです……完璧な姿で。列車の中で、突然、基本的な構想が頭に浮かびました。本当の自分をまだ知らない男の子が、魔法使いの学校に通う……。ハリーにはじまり、次にはすべての登場人物と場面が、一気に頭の中に流れ込んできたのです。」

J・K・ローリングは6歳の時から物語を書き、頭の中に山ほどの「仕込み」をしてきましたが、その最後に必要だったのが、リラックスして、頭の中に「余白」を作ることだったのは、恐らく間違いないでしょう。

↑最大限の努力をした後に必要なのは、頭の中の「余白」

どんな時に、人は幸せを感じるのか

お金やモノを手に入れることではなく、創造性を発揮することが幸福度をアップさせるということは、様々なリサーチによって確認されており、2008年、国のGDP(国内総生産)は増えているのに、ほとんどの人の生活がどんどん貧しくなっていることに気づいた元フランス大統領のニコラ・サルコジは、経済力で人生の質を測るのではなく、「生活の質(Quality of Life)」を指標とする委員会を結成し、「これからの幸せの定義はこの委員会“以前”と“以後”と呼ばれるようになり、大きく変わるだろう」と述べました。(7)

欧米から日本に輸出されている「もっと働いて、もっと稼げ」という企業文化はストレスや心身の消耗を燃料に機能し続けているようなもので、本来、人間のDNAに組み込まれている自然に触れてリラックスせずに、働き続けることは、クリエティビティや意識決定に多大な影響を与え、最終的にはどんどん生活の質を下げていくことに繋がっていきます。(8)

↑「もっと働いて、もっと稼げ」仕事は増えても、生活の質はどんどん下がっていく

アマゾンに800億円で買収されたカスタマー・サービスを主軸とするザッポスのCEOトニー・シェイも経営者として、幸せの意味を少しはき違えていたとして、次のように述べています。(9)

「これまでの人生で最高に幸せを感じた時のリストを作ってみてわかったのは、幸せを感じたどの時も、お金を使っていなかったということでした。わかったのは、何かを作っているとか、クリエイティブで独創的でいると私は幸せだったということでした。夜明けまで一晩中友人と電話でしゃべっていると幸せでした。中学時代に一番仲よしの友人たちとハロウィンのお菓子をねだりながら近所を回っていると幸せでした。水泳大会の後にベイクドポテトを食べると幸せでした。」

「そして考えたのが、私たちはみな、自分の属する社会と文化によって、どれほどあっけなく、自分で考えることをやめ、結局のところ幸せとは人生を楽しむことであるのにもかかわらず、既定のこととして、お金がたくさんあることイコールより多くの成功と幸せだと思い込むように洗脳されているのか、ということでした。」

↑クリエイティブで独創的な時間が、人生で一番幸せな時

アインシュタインは「幸せ」を、x(幸せ)=a(仕事の量)+b(遊びの量)+c(沈黙)と定義し、Cの「沈黙」が幸せに何の関係があるのか気になるところですが、アインシュタインは学生の頃、忙しく研究に熱中する友人を尻目に、ただ呆然と、アルプスのアッペンツェル地方の美しい山道を歩き回っていました。

アインシュタインの才能を読み解くには、「自然と接する」が大きく関与してきそうですが、恐らく、アインシュタインも自然の中で「沈黙」を意識することで、J・K・ローリングと同じように頭の中に余白を作り、最後の「仕上げ」をしていたのではないでしょうか。

qol20↑アインシュタイン「x(幸せ)=a(仕事の量)+b(遊びの量)+c(沈黙)」

現在、都会で生活する人達は自然への結びつきをどんどん失っていますが、自然を少しでも意識した生活を心がけることで、よく考えたら、自分がどれだけ無駄なことに時間を使っているかに気づくキッカケになるかもしれません。

また、子供が物事に集中できなかったり、すぐキレたりするのは、しっかりと自然の中で遊んでいないことが原因であるという調査もあり、カナダの生物学者、ディビッド・スズキ氏によれば、カナダの子供たちは、1日に8分しか外で遊ばないのに、テレビやゲームの画面を見ている時間は6時間もあると述べており、東京大学名誉教授の養老孟司さんは、子供から自然を取り上げると、いじめみたいな人間世界の中でのマイナスの重さが2倍になってしまうと言います。(6)

qol16↑子供から自然を取り上げると、世の中のマイナスの重さが2倍になる

アメリカでは、自閉症の子供を夏に1ヶ月キャンプに連れていったら自閉症が治ったという話もありますが、満員電車で通勤し、朝か夜かの区別もつかないまま、スクリーンとにらめっこしているビジネスマンにとって、自然の必要性はなおさらのことでしょう。

なぜ、自然の中で食べるモノは美味しいのか、なぜ自然の中でキャンプファイヤーの火を目にすると、正直な気持ちになってしまうのか、明確な理由はよく分かりませんが、もし、都会に心も身体も染まり、自然の中で食べるモノの味と、飲食店で食べるモノの味の違いが分からなくなってしまっているのであれば、すでに人間としての機能が低下してきている証拠でもあります。

ひと言で言えば、「アーバン・アウトドア」はそんな都会人には絶対に必要なリカバリー・プログラムなのかもしれません。

  1. 【参考文献】
  2. 1.ジョンJ.レイティ、リチャード・マニング「GO WILD 野生の体を取り戻せ! 科学が教えるトレイルラン、低炭水化物食、マインドフルネス」(NHK出版、2014年) Kindle P13
  3. 2.スノーピーク「自然にふれて取りもどす 人間の基本」(マガジンハウス、2015年) P128
  4. 3.養老 孟司「日本のリアル 農業・漁業・林業 そして食卓を語り合う」(PHP研究所、2012年) Kindle P844
  5. 4.下重 暁子「持たない暮らし」(KADOKAWA/中経出版、2014年) P35-36
  6. 5.オリ・ブラフマン「ひらめきはカオスから生まれる」(日経BP社、2014年) P122
  7. 6.養老孟司、C.W.ニコル「身体を忘れた日本人」(山と渓谷社、2015年) Kindle P680
  8. 7.ジョセフ・E. スティグリッツ「暮らしの質を測る―経済成長率を超える幸福度指標の提案」(金融財政事情研究会、2012年) P4
  9. アリアナ・ハフィントン「サード・メトリック しなやかにつかみとる持続可能な成功」(CCCメディアハウス、2014年) Kindle Loc166
  10. トニー・シェイ「顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説―アマゾンを震撼させたサービスはいかに生まれたか」(ダイヤモンド社、2010年)

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