パリジェンヌ「あなたの経験が、あなたの顔になる。給料の3分の1を美容と洋服に使うなんて本当にバカげてる。」
「パリジェンヌ」と聞けば、おしゃれなパリの街で見かける、年を重ねてもなお美しい、例えば、イギリス出身ではあるもののフレンチスタイルを完全に自分のものにし、最もパリジェンヌらしいと言われているジェーン・バーキンのような女性の姿を思い浮かべる人が多いでしょう。パリジェンヌたちは、年齢や結婚などの型にとらわれず、ファッションも恋愛も自由に楽しんでいると言うのはよく知られていることかと思います。
しかし、誰もが思い描く見た目の可憐さとは裏腹に、パリジェンヌは他人と同じであることに美徳を感じないため、自分の意見を簡単に曲げたりなどはせず、頑固で芯が強いというのもパリジェンヌの大事な特徴の一つなのだそうです。
↑見かけの可愛さとは裏腹に、内面は物凄い個性の固まり
常に他人と違う意見を持つことを意識しているパリジェンヌたちは、日常的に本や映画を読んだり見たりしては感想をお互いに言い合うそうで、政治家やジャーナリストが話す無難な意見はつまらないものと考え、とにかく話している相手と真逆の意見を述べて批判し、誰かの意見ではなく自分の意見がある人のところに集まるのだといいます。(1)
本離れが指摘されている日本では、1週間の平均読書時間が4時間であるのに対し、フランスでは7時間と大きく差が開いていますが、新聞やTVよりも本を活用するというフランス人の昨年1年間に読んだ本の平均冊数は15冊となっていて、フランス出版協会の会長であるVincent Montagne氏が、「我々はフランス国民に本屋へ行くように強要しているわけではなく、読書家だから自ら本屋へ足を運ぶのだ」と述べていることからも、フランス人がどれほど読書愛好家であるかが分かります。
↑「考える」を身につけるために、自然と本屋に足を運ぶ
建築家の八納啓造さんが著書「わが子を天才に育てる家」の中で、欧米では家に招かれた際には必ずといっていいほど、書庫や書斎に通されると述べているように、本はコミュニケーションのための重要なツールであり、パリジェンヌたちは、本から得た知識をふまえた会話を重ねてきたことで、自信を持って意見を述べる楽しさが日常的なものとなっているのかもしれません。
自分の意見を主張する経験を積み重ねるほどに、自分に自信をつけていくパリジェンヌは、経験を重ねるほどに自分の外見に対しても自信を持つようになり、洋服とのバランスをとるために目にメイクをする必要がある場合以外は、「シワを隠すにはメイクより笑顔」と、アイラインと口紅だけで済ませることがほとんどで、ファンデーションは表情や年齢など、自分の本来の魅力がわからなくなってしまうから使わないのだと言います。(2)
↑「シワを隠すにはメイクより笑顔」
ココ・シャネルも「あなたの経験が、あなたの顔になる」と言っているように、偽物を嫌うパリジェンヌにとって、化粧は所詮、人工的に造られたものでしかなく、少しでも若く見せようとエステや整形手術などに手を染めることはもってのほか、パリジェンヌたちは、年を重ねれば年を重ねただけの美しさが表れると考えているのです。(3)
服装においても、値段やトレンドなどに流されたりせず、心から愛着のわく自分らしさを表現してくれるような洋服以外は必要ないと考え、彼女たちのクローゼットにある洋服はせいぜい10着くらい、1週間に数回は同じ服を着るのが当たり前なのだそうです。(4)
↑毎日服を選んでいる時間の方が勿体無い
一方、日本では「美魔女」という言葉が流行していて、化粧やエステなどで人工的に若くあり続けようとする女性が増えており、2014年に行われた美容整形外科手術の件数は世界で第3位となっていますし、日本の女性は毎月、お小遣いの3分の1を洋服購入にあてる人がほとんどだと言います。
フランス人にとって、本は電気や水やパンと同等に必須だといいますが、外見よりも知識を重要視するようになれば、年齢もシミやそばかすもチャームポイントに変えてしまう、自分自身の個性に誇りを持つパリジェンヌたちのように、自然のままに生きることができるのかもしれません。
↑お小遣いの3分の1を洋服購入に当てるフランス人女性はまずいない。
自分の知識や経験を信じ、自分に素直に生きるパリジェンヌたちだからこそ、好きなものは好き、嫌いなものは嫌いと意思表示がはっきりしており、好きなものを手に入れることに対して、人生のどんなステージであっても決して妥協することはありません。
フランスの女性1人あたりが産む子供の数は平均2人と、日本の約2倍になっていて、子供を産むことに積極的なパリジェンヌと言えますが、子供が産まれたからと言って自分の時間をすべて子供に捧げなければならないと考えることはなく、もちろん子供にはたくさんの愛情を注ぐものの、友達とパーティーに出かけて朝まで飲み明かすなど、自分のために過ごす時間をしっかり確保し、何歳になろうとも女であることを意識し続け、人生を楽しみます。(5)
↑子供が生まれても、人生の主人公はいつまでも自分自身
パリジェンヌの子供たちは、母親に連れられてランチやショッピング、コンサートやギャラリーのオープニングに参加することもあり、母親が活発だからこそ、子供たちは日常と違う経験ができ、それと同時に、大人の世界を垣間見ることもできるため、大人になれば楽しいことがたくさん待っていると、大人になることに対してポジティブなイメージを持つ子供が多いのだそうです。
常識や一般的な価値観を一つの目盛りにして、世間からはみ出さないように注意を払わなければならない日本では、小さな子供がいるのにも関わらず友達と朝まで出かけたりすることがあれば、間違いなく世間からは厳しい目で見られることになるでしょう。
↑子供ができても、できるだけ今までと同じような生活スタイルを目指す
実際、家にこもって子育てだけに従事する日本の母親は、子育て以外の世界から隔離されており、「家に子どもと二人でいると、孤独に感じる」と、子育てにストレスを抱えてしまうことが多いと言いますし、自分の考えよりも周囲の考えにプライオリティを置いてしまっていることが、どことなく窮屈な日本社会を作り上げてしまっています。
パリジェンヌのように常識や世間体よりも、自分自身を優先にすれば、女性はやりたいことをあきらめずに、人生をかけて自分を表現することのすばらしさを知ることができるのではないでしょうか。
↑世界中の女性がフランス人に憧れる理由が何となく分かる
末期患者のケアに携わった経験を持つオーストラリア出身のライターBronnie Ware氏は、患者との会話の中で「人生で後悔していることは何か」とよく質問したそうで、仕事ばかりの人生を悔やむ人がいたり、また、感情をもっと素直に表現できる勇気があれば良かったと悔やむ人がいたり、さまざまな答えがある中で一番多かったのは、「誰かが期待するような人生を歩むのではなく、もっと自分に正直になって好きな人生を歩めたら良かった」という回答だったと言います。
レゲエの神様として今でも称えられているボブ・マーリーが残した、「Love the life you live, Live the life you love (自分の生きる人生を愛せ、自分の愛する人生を生きろ)」とは、まさに自分の価値観に正直であり続けるパリジェンヌたちを表現しているような言葉であり、他人の価値観をベースに物事を考えているようでは、自分が本当に良いと思える人生を歩むことはできないのかもしれません。
↑誰でも最後の最後で後悔することは大体同じ
女性の活躍を推進する「ウーマノミクス」政策もあり、2015年時点で日本の女性の就業率は71.8%とユーロ圏全体よりも高くなっているものの、フランス女性の85%というの就業率の高さにはまだまだ及びません。
フランス女性の就業率がこれだけ高い理由には、パリでは男性も女性も働くのが当たり前で、日本のように男性が社会で働き、女性が家事を負担するという明確な役割分担がないということがありますが、それ以前にフランスにはパリジェンヌのような自立した女性が多く、たとえパートナーから「勤めている会社が倒産したときはボクを養って」と頼られたとしても、「あなたが失業したら食べさせてあげる」と軽く応えるというほどに、女性が精神的に自立しているのです。(6)
↑経済的自立は精神的自立
日本でも、女性は自立することに価値を感じるようになり、女性の多様な働き方を支援するWoman&Crowd社が現役女子大生を対象に行った「結婚・出産とキャリアに関する意識調査」では、回答者の4人に1人が「夫は専業主夫でも構わない」と回答したそうです。
「女神的リーダーシップ」の著者であるジョン・ガーズマ氏とマイケル・ダントニオ氏が行った調査によると、理想的なリーダーに求められているのは、思いや感情を素直に表現する「女性的」なリーダーであるという結果が出ています。また、日々スピードを増しながら変化を続ける現代社会では、努力や知識だけで解決できない部分もあるため、リーダーには直感力が必要であると言われ、2,000人以上の経営者を対象に行った調査では、女性経営者の方が男性経営者より直感力において優れているという結果が出たそうです。(7)
↑ビジネスでも女性の方が直感力に優れている
イギリスの作家ラドヤード・キプリング氏も、「女性の推測は、男性の確信よりもあたっていることが多い」と指摘しており、明確な意思を持ち、とことん追求する姿勢で妥協を許さないパリジェンヌのような女性の方が、ビジネスにおいても世界的に求められているのです。(8)
自分らしく生きることを追求するパリジェンヌですから、職場だけでなく家に帰ったあとも、自分らしくいられる快適さが重要であり、住まいを自分だけのオンリーワンなデザインに変えないわけがありません。
例えば、部屋の色使いはパリジェンヌに共通して重要なポイントで、パリのアパートの壁は大体が白を基調にしているため、自分の好きな色に変えやすく、家の中を自分のこだわりの鮮やかな色で統一する女性が多いそうです。
↑自分が落ち着く「色」にまで徹底的にこだわる
また、本が大好きなパリジェンヌたちの部屋に必ず置いてある本棚からは、その女性がどのような分野の本を好んでいるかが分かるため、パリジェンヌたちの世界観を主張する大切な役割を担っていると言います。
その他、トイレやシャワールームにも自分の好きな写真やポスターを飾ったりと、部屋のありとあらゆる場所に自分だけの世界を作り込んでいくパリジェンヌたちは、まるで自分たちの主張を競うかのように、限られた空間にそれぞれのこだわりを詰め込んでいるのです。
↑本棚を見れば、その人がどんな人間かは大体分かる
現在、パリの街並みの多くは100年以上前にできあがったものであるため、パリのアパートはどれも建物が古く、時代を感じさせますが、部屋の中は自分だけのこだわりの空間にすることが可能なのだといいます。パリジェンヌにとって、家は自分の快適な場所へと作り変えていく楽しみを与えてくれるものになっているように、日本でも、自分の価値観で心地よい住まいへと家を作り変える、“リノジェンヌ”と呼ばれる女性が増えてきています。
実際、リノベーションのコーディネーターとしてリノジェンヌをサポートしている中丸沙織さんは、コーディネーターになって1年にも関わらず、80人以上の女性からリノベーションの相談を受けており、特に最近になってますますこういった傾向を強く感じているのだそうです。
コーディネーターの他、設計も担当している野口妙子さんは、女性とリノベーションを進めていくことで、女性好みのかわいいドアノブを選んだり、壁を一面だけペイントしたり、普通のマンションにはないこだわりが出せるため、「女性」と「リノベーション」はとても相性が良いと述べています。
↑自分の価値観を主軸に生きたい女性が絶えない
室内の細部にまでこだわりを表現するのは、細かい気配りができる女性だからこそ成せることであり、リノジェンヌもパリジェンヌも欲しいものを実現するためには、妥協を許さないという点は同じようで、多くのリノジェンヌは自分の自立を証明するために家を購入してリノベーションを進めるそうで、日本の女性はパリジェンヌ化してきていると言ってもいいのかもしれません。
「FUCK IT 『思い込み』をぶっこわせ!」の著者ジョン・C・パーキン氏が、「こうあるべき、こうすべき」という考えを拭い去った時、人生の選択肢が新しく増えるのだと述べているように、仕事もファッションも家のデザインも、既存のものから選んでいくのではなく、自分の価値観や好きなものをベースに実現していくことで、人生そのものをより心地いいものへと変えていけるのではないでしょうか。(9)
↑30歳を超えたら、もう自分らしく生きていい
自分に正直に行動に移していくパリジェンヌたちが、先入観や固定観念に惑わされることがないのは、自分で経験してから自分にとって価値があるかどうかの判断を下すためで、経験を積み重ねるほどに人生をより楽しめるようになるのです。
昨日より今日、今日より明日と、毎日の暮らしをより良いものにしていくことができたなら、あなたにとって人生は今以上に心地良いものになるはずで、きっとパリジェンヌのように、日本の女性も年を重ねるほどに輝きを増していくのかもしれません。
- (1)吉村 葉子 「年をとってもモテるフランス人年をとるとモテなくなる日本人」 (2016年、宝島社) P49
- (2)吉村 葉子 「年をとってもモテるフランス人年をとるとモテなくなる日本人」 (2016年、宝島社) P73、133
- (3)カロリーヌ・ド・メグレ、アンヌ・ベレスト、オドレイ・ディワン、ソフィ・マス 「パリジェンヌのつくりかた」 (2014年、早川書房) Kindle 1136
- (4)ジェニファー・L・スコット 「フランス人は10着しか服を持たない~パリで学んだ“暮らしの質”を 高める秘訣~」 (2014年、大和書房) P60
- (5)カロリーヌ・ド・メグレ、アンヌ・ベレスト、オドレイ・ディワン、ソフィ・マス 「パリジェンヌのつくりかた」 (2014年、早川書房) Kindle 302
- (6)吉村 葉子 「年をとってもモテるフランス人年をとるとモテなくなる日本人」 (2016年、宝島社) P34
- (7)ジョン・ガーズマ、マイケル・ダントニオ 「女神的リーダーシップ ~世界を変えるのは、女性と「女性のように考える」男性である」 (2013年、プレジデント社) Kindle 134
- (8)ヘレン・E・フィッシャー 「女の直感が男社会を覆す ビジネスはどう変わるか」 (2000年、草思社) P40, 43
- (9)ジョン・C・パーキン 「FUCK I T「 思い込み」 をぶっこわせ!」 (2016年、三笠書房) Kindle 332