メディアや企業の目線ではなく、自分が本当に「すてき」だと思うものを選ぶ時代へ

[記事更新日]2017/04/21

暮し

「暮しの手帖」の初代編集長である花森安治は、レッテルを貼るために美しく着飾ったり、流行を追い求めるのではなく、さり気ない一日のいつでもあるひと時こそが「すてき」な暮しだと考え、そんな「すてき」な暮しを守るには、私たち自身が暮しに向き合い、暮しに対して「本当にこれでいいのだろうか」と立ち止まって考える必要があると述べています。

「すてき」な暮しとは私たち一人ひとりが日々の暮しに対して審美眼を持つことで得られるものなのです。(1)

止まって考える

↑暮しに対して「本当にこれでいいのだろうか」と立ち止まって考える必要がある

「暮しの手帳」の刊行の背景には、戦時中に効果的な戦争遂行の標語ポスターを作ったことで戦争協力として批判を受けた花森氏の経験があり、二度と同じ過ちを繰り返さないとの思いを込めて次のように述べています。(2)

「ボクは、たしかに戦争犯罪を犯した。言い訳させてもらうなら、当時は何も知らなかった、だまされた。しかしそんなことで免罪されるとは思わない。これからは絶対だまされない、だまされない人たちをふやしていく。」

花森氏の「すてき」な暮しを追求する姿勢の根底には、「女の人がしあわせで、みんなにあったかい家庭があれば、戦争は起こらなかった」という痛恨の思いがあり、「これから起こるかもしれない戦争に対して反対するには、私たち一人ひとりの中に、守るに足る暮らしがあることが大事だ」という気持ちが抱かれているのでしょう。(3)

騙される

↑守るに足る暮しがあれば、人は騙されない (リンク)

「マスの時代はそろそろ終わりだ。新聞やテレビから流れてくる情報に、多くの人は不信を抱いている。ウソばかりとはいわないが、少なくとも不偏不党は建前で、情報発信の裏には何らかの意図があることに、多くの人々は薄々気づいている。そうなると、もう大衆は維持できない」と述べているのは、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門とし、創造産業全般にわたって活躍している高城剛氏です。(4)

また、ライブドア前社長の堀江貴文氏もグルメサイト「食べログ」を例にあげて、レビューの評価だけに踊らされる消費者はすでに減ってきていると指摘しており、大衆をベースとすることができなくなってきている最近の消費状況は、ある意味、花森が「暮しの手帖」を通して伝え続けてきた「本当に良い暮しとは何か」を個々人が意識し始めていると考えられます。

サイト

↑もはや消費者はレビューの評価だけを煽るサイトを信用しない

当時、花森氏は人々が日々の暮しを工夫して「すてき」に変えていけるよう、衣・食・住における私たちの暮しに対し「すてきかどうか」という問いを大衆の目線に立って投げかけていました。企業が語る商品やサービスの魅力が、本当に人々の日常の暮しに役立つものなのかどうかを徹底して追求したのです。

花森氏は、政府や企業の目線で語られる商品よりも、まず自分の目線でそれが「すてき」なものかどうかを知ろうとしなければならないという信念を持ち、当時の国民生活白書(2013年からは消費者白書に名前変更)が「トースターの使用によってパン食が数倍うまく食べられる」と発表したことに対して、本来であれば食事を美味しく食べ健康な暮しを送るには、トースターではなく光と熱と水が大事であるとの考えから、次のように批判しています。(5)

「この文章を書いたお役人がイジラしくさえなります。…おそらくこの人がトースターを買った時の実感なのでしょう。…じか火で焼いた方が、ずっとおいしいトーストになります。パン食をおいしくするのは、トースターではなく、おいしいパンと、上質のバターと、おいしいコーヒーか紅茶が必要でしょう。」

パン

↑食事を美味しくするのは、美味しいパンと上質なバターとコーヒー

発信

↑「それって、誰の情報ですか?」若者は感性の合う人物からの発信を信用する

人気ブロガーでありフリーランス編集者の速水健朗氏によると、現代の若者たちにはキャンペーン文句のように繰り返される「やりたいことを仕事にする」「好きなことを見つけろ」という就職意識があり、「やりたいこと」は自分の内面から発見するものなのだという意識が強く存在しているそうで、彼らは「モノ離れ」にこそ自己実現を見出し、エコロジーやボランティアや海外の貧困問題に興味を持つことで「自分らしさ」を表現する部分があります。(8) (9)

そんな若者は見た目だけ格好つけることを嫌がり、「自分らしくいられること」を何よりも大切にするため、不特定多数から作られるランキングやレビューはあまり信用していません。そして、いくらテレビCMや商品PRで、新しい技術や原材料、そして製造法などのメーカー側からのこだわりをいろいろ説明したとしても、「違いがよくわからない」というのが若者の本音なのです。(10)

テレビCM

↑若者にとってテレビCMや商品PRはどれも同じ内容に感じる

日本のマーケティング・リサーチャーである三浦展氏は、今の世の中は誰もが同じザ・ベストを求めるのではなく、一人ひとりが自分にとってマイベストな暮しを求める時代だと考え、「自分にとって最適な、いちばん快適な、いちばん似合う、気持ちいいものを求めるということです。あるいは既製品を、自分に適した物にカスタマイズするということです」と表現しています。(11)

高収入世帯の母親が読者層である女性月刊誌「VERY」は、「もっとお洒落に子どもを乗せたい」という母親のママチャリへのニーズに応えるため、徹底して安全でお洒落な自転車を追求した結果、装飾過多ではないシンプルな黒のデザインを考案したそうで、ここから見てとれるのは、人々が物資的豊かさから脱却し、シンプルな暮しを求めている様子です。(12)

シンプル

↑セレブママが選んだのは装飾過多ではなく安全でシンプルな自転車

シンプルな暮しを好む人は、エアコンを使わず打ち水をして涼をとるなど、生活に昔ながらの暮しの良さを取り入れたり、新製品を購入するのではなく親や祖父母から引き継いだ物を愛着をもって何回も使い込むそうで、そういった人の中には、健康的な暮しを求める人が多く、食事は自然食品を使って丁寧につくり、掃除や洗濯は合成洗剤を使わず自然素材の洗剤を使っています。(13)

三浦氏は「今は、毎日服装をとっかえひっかえする人より、毎日同じ服を着る人のほうが、どうもおしゃれ、かっこいい、カリスマだと思われる時代」と述べていますが、ブランドへのこだわりが低下し、できるだけ自然な素材で気に入った物だけを使うという物質的豊かさからの脱却は、エコロジカルな暮しへの志向として表れており、物は少ないが豊かさを感じることのできるシンプルなライフスタイルを好む人が増えているのです。(14)

服装

↑毎日服装を変えるより、毎日同じ服を着る人のほうがかっこいい

「何か大切なものが欠けているのではないか、と気づいている人は、どんどん増えています。一般的にいって、大きな経済的発展を遂げた先進国に、よりこうした意識が広がっているようです。
こうした国の人々は物質的には恵まれてとても快適に暮らしているのですが、精神的な欲求不満を抱えています」と池上彰氏は述べており、今や消費社会は既に成熟し、人々は単にモノが欲しいのではなく、モノにまつわるライフスタイルを求め始めているのでしょう。(15)

モノが溢れかえり、作る人と使う人がつながらなくなってしまった現代とは対照的に、江戸時代の庶民の生活というのは、長屋の部屋は6畳とちょっとした土間があるだけで、一家にひとつトイレがあること自体が夢のような生活でした。

しかし、幕末期に日本に来た外国人の目には日本人は幸せそうだという感想が見られ、たとえば、江戸時代に長崎を訪れた英国エルギン卿使節団のシェラード・オズボーンは「この町(長崎)でもっとも印象的なのは男も女も子供も、みんな幸せで満足そうに見えるということだった」と描写しています。

「江戸時代の生活はロハス(健康で持続可能なライフスタイル)」と考える歴史の謎を探る会によると、例えば、割れた茶碗は「古碗買い」が、壊れた傘は「古株買い」が補修をするために買い取り、そのほかにも、下駄の歯入れ、提灯張り替え、こたつの櫓直しなど、壊れたものは何でも専門の修理職人に依頼して繰り返し修繕し、工夫に工夫を重ね庶民から武家まで誰もがモノをとても大切に使っていました。(16)

作り手と使い手が近かった江戸時代では、人々が日常的に使うモノのひとつひとつに「より良く」という気持ちや工夫を込めることは当たり前で、そういった日常が精神的な豊かさを生み出していたのでしょう。

江戸時代

↑モノを大切にしていた江戸時代には精神的な豊かさが生まれていた

花森氏は人々が「すてき」な暮しにとって本当に良いモノを見極める目をもてるように、「暮しの手帖」で消費者が商品を使うシチュエーションで商品テストを行い、商品に対する批評を展開していましたが、その背景には消費者が本当に「すてき」と感じるものを企業に作らせる意味をこめていたのだとして次のように述べています。(17)

「なにもかしこい消費者でなくても、店にならんでいるものが、ちゃんとした品質と性能をもっているものばかりなら、あとは、じぶんのふところや趣味と相談して、買うか買わないかを決めればよいのである。」

商品テストとは、作る人や売る人が自分たちの利益よりも消費者にとって良い商品を作りたいと真剣に思う世の中を実現するためにあったのです。

消費者

↑消費者が本当に「すてき」と感じるものを企業は作らなければならない

「すぐには役に立たないように見えてもやがてこころの底ふかく沈んでいつかあなたの暮し方を変えてしまう」これは暮しの手帖の使命ですが、商品やサービスの本質とは、いかに便利で安く高性能かということよりも、いかに人々の暮らしに真剣に向き合えるかというところにあるではないでしょうか。

広告や目新しさに踊らされなくなった若者をはじめ、価値観の多様化やテクノロジーの進化がより一層進むなか、人々の「すてき」な暮らしに対する意識は研ぎ澄まされてきています。「すてき」な暮しとは、雑誌や広告を真似して美しく着飾るものではなく、今ある日常を工夫することであり、これからは企業も消費者も「本当にこの商品が暮しをすてきにしてくれるのか」という目線を持って、暮しに向き合う必要があるのです。

  1. 参考資料
  2. (1)永山多貴子、島村元子「花森安治と『暮しの手帖』」(2016年、株式会社小学館)Kindle
  3. (2)永山多貴子、島村元子「花森安治と『暮しの手帖』」(2016年、株式会社小学館)Kindle
  4. (3)津野海太郎「花森安治 日本の暮しをかえた男」(2016年、株式会社新潮社)
  5. (4)高城剛「2035年の世界」(2014年、PHP研究所)Kindle
  6. (5)永山多貴子、島村元子「花森安治と『暮しの手帖』」(2016年、株式会社小学館)Kindle
  7. (6)堀好伸「若者はなぜモノを買わないのか」(2016年、株式会社青春出版社)P68
  8. (7)堀好伸「若者はなぜモノを買わないのか」(2016年、株式会社青春出版社)P68
  9. (8)速水健朗「自分探しが止まらない」(2008年、ソフトバンククリエイティブ株式会社)P5
  10. (9)速水健朗「自分探しが止まらない」(2008年、ソフトバンククリエイティブ株式会社)P115
  11. (10)堀好伸「若者はなぜモノを買わないのか」(2016年、株式会社青春出版社)P87、P83、P166
  12. (11)三浦展「毎日同じ服を着るのがおしゃれな時代」(2016年、株式会社光文社)P31
  13. (12)三浦展「毎日同じ服を着るのがおしゃれな時代」(2016年、株式会社光文社)P81
  14. (13)三浦展「毎日同じ服を着るのがおしゃれな時代」(2016年、株式会社光文社)P22
  15. (14)三浦展「毎日同じ服を着るのがおしゃれな時代」(2016年、株式会社光文社)P26
  16. (15)池上彰、ダライ・ラマ法王14世「これからの日本、経済より大切なこと」(2013年、株式会社飛鳥新社)P18
  17. (16)歴史の謎を探る会(編)「日本人なら知っておきたい 江戸の庶民の朝から晩まで」(2006年、河出書房新社)Kindle
  18. (17)永山多貴子、島村元子「花森安治と『暮しの手帖』」(2016年、株式会社小学館)Kindle

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