コーヒー1杯でも200通りの注文方法「こんな完璧なコーヒーを出されたらもうスタバなんて絶対に行けませんよ。」

[記事更新日]2017/03/24

A female hand pours cream milk into a mason jar of cold brew coffee.

オーストラリアやイタリアでは、スターバックスは受け入れられない

今朝、どれだけの人がコーヒーを飲んで家を出ただろう。世の中に浸透したコーヒーと、それに拍車をかけているコーヒーチェーン店。日本では、数多くの人が、こうしたチェーン店でコーヒーを飲んでいます。今回は、そんなコーヒーと生き方の話です。

社会主義国家であったソ連政府は、国民の労働時間や賃金が皆同じで、さらに国民の衣服も平等でなくてはならないと考え、国民に全く同じ仕様の衣類を配ったそうですが、時間が経つと配給された服を着崩したり、自分好みのカラフルなボタンを付けたがる人々が現れたそうです。

東京都立大学心理学博士の榎本博明氏によると、自分の個性や人間味が確立して初めて仲間の中で自分の居場所や位置づけを確認できると語り、「自分がこういう人間だ」というイメージがはっきりすれば気持ちが安定するのは、人間の本能だと述べたように、もしかしたらソ連国民がとった行動は自分の人間味や個性を否定する社会主義体制に対する反発だったのかもしれません。(1)

A trendy hipster man and woman with tattoos smile and talk as they enjoy a coffee and latte at a bright industrial styled cafe setting, sitting at a large bamboo wood table. Horizontal with copy space.

↑人間は個性が確立されて初めて安定する

コーヒー業界でも同じように、規制がかけられていたコーヒーの輸出入が1960年に自由化され、さらにスターバックスをはじめとするコーヒーチェーン店の台頭により、コーヒーは大衆の手に行き渡りましたが、オーストラリアやイタリアのようなコーヒー先進国では、9割以上の人がチェーン店ではなく、自分好みの個人店でコーヒーを購入するという調査結果が出ており、コーヒーが嗜好品ではなく人々の生活の一部となっている国では、すでにコーヒーに人間味を追求する時代に移行しています。

Young turkish barista making coffee.

↑チェーン店のコーヒーを飲むなんて、自分がつまらない人間だと言っているようなものである

実際にスターバックスは2000年にオーストラリアのシドニーに一号店を出店しましたが、2008年までに約110億円の赤字を出して、2014年に事業譲渡により事実上の撤退にまで追い込まれました。

また、イタリアにおいても2016年時点でスターバックスは一軒も開店しておらず、オーストラリアのコーヒー専門誌「Bean Scene」の編集長、サラ・ベイカー氏は、コーヒー先進国でこのようにコーヒーチェーン店が拒絶される理由を次のように語ります。

「チェーン店は基本的にどこの店も同じコンセプトで、お客さんが個人的に愛着を持つ理由があまりありません。コーヒー文化が根付いている国の人々は大量生産されていないユニークなコーヒーを好みます。カフェにおいても、特色があって独自のアイデンティティを持った店が大好きなんです。」

コーヒーは人間と似ている

Potsdam, Germany - August 15, 2015: Starbucks is the largest coffeehouse company in the world. The company was founded in 1971 and is headquartered in Seattle, Washington.

↑イタリアの人々は個性のないコーヒーにあんな高い値段を払うことが信じられない

イタリアには日常の些細なことを最大限に楽しもうとする人生哲学が国民に深く根付いており、毎日口にするコーヒーがそのまま自分の人間性や生き様をさらけ出すと理解しているため、コーヒーという一見ちっぽけにも思えることに笑ってしまうほどの執着を見せると言われていますが、渋谷・道玄坂の「アバウトライフ・コーヒーブリュワーズ」のオーナー、坂尾篤史さんは一杯のコーヒーに強いこだわりを持つことは、幸せにつながるとして次のように述べました。

「オーストラリアのメルボルンや米西海岸のポートランドなど、美味しいコーヒーショップが地域の人々に愛されている町は、住民の幸福度が高い。だから、僕は美味しいコーヒーと幸福度の関係を信じています。」

A man with a beard, man bun and hipster glasses holding a cup of coffee as he gazes though a window lost in thought. ↑コーヒーの美味しさと街の幸福度は比例する

コーヒー先進国では、コーヒーを介して人間関係が築かれていて、例えば、イタリアのナポリでは日本語で「保留コーヒー」を意味する「il caffe sospeso」と呼ばれる伝統的な習慣があり、人々はカフェで一杯のコーヒーを飲み、2杯分の料金を支払って店を後にします。

そして、余分に購入した一杯のコーヒーは見知らぬ誰かが飲むそうで、その背景には、ナポリは貧しい人が多く暮らしており、コーヒーを飲みたいけれど手持ちのお金がない人がカフェに来たときにコーヒーが飲めるようにと、懐に余裕がある時に見知らぬ人にコーヒーをおごるという住民の助け合いの精神があるのです。

コーヒーが愛されている国ではこういったコーヒーでつながった人間関係が当たり前に存在しますが、ブリティッシュコロンビア大学の心理学者、エリザベス・ダン氏が630人を対象に行った実験によると、お金を自分に使うよりも他者に使う方が幸福度が20%も向上したという結果が出ていることから、コーヒーを他者に贈るような日常が、イタリア人の幸福度を上げていることは間違いなさそうです。

Fresh espresso and whole roaster coffee beans in a white cups on old dark wooden textured table

↑お金は他人のために使う方が良い「一杯は自分のため、もう一杯は他人のため」

世界中にスターバックスをはじめとするイタリアのカフェを形だけ真似たチェーン店が増えていますが、それらのチェーン店とイタリアの個人が経営するカフェの一番の違いは、注文方法が異なる点にあると言われており、チェーン店ではメニューにあるものを選ぶ一方、イタリアのカフェでは口頭で好みを説明する方式になっており、イタリア人はそういった人と人との関係だからできる柔軟で人間臭い対応のほうをずっと心地よいものだと感じるのです。(2)

イタリアのカフェではコーヒー一杯で約200通りの注文の仕方があると言われています。エスプレッソ一つを注文するにしても、自分の好みの量のミルクを店員に伝えて自分専用のマッキアートを注文したり、ミルクを数滴垂らしただけのオリジナルリストレットと呼ばれるエスプレッソも注文することができ、また、どのカフェの棚にも並んでいる少なくとも50種類はあるアルコール類をコーヒーに加えれば、いくらでも自分専用のコーヒーをわがままに注文できます。

Real barmen at his coffee shop, Italy

↑コーヒー1杯にも200通りの頼み方がある

「バール、コーヒー、イタリア人〜グローバル化なんのその〜」の著者であり、日本でスローフード運動を広める活動をしている島村菜津さんは、日本のチェーン店でマッキアートを注文した際に、コーヒーフレッシュの代わりに本物の牛乳を少しだけ垂らして欲しいと頼みましたが、アルバイトの青年は困った顔をして、店長に聞きに行って程なく戻って来たところ、「それはできません」とだけ答えたそうです。(3)

そのような経験を振り返って島村さんは、スターバックスがイタリアに進出できない、もしくは進出できても繁栄しないであろう理由をチェーン店の融通のきかなさが、イタリアのようなバラエティに富む世界には馴染まないからだとして、次のように述べました。

「チェーン店タイプの企業はその過程においても、商品そのものについても、厳しいマニュアルに従って生み出されたものであり、どうしても、スタンダードなものにならざるを得ないんです。」

Barista is making a tea

↑チェーン店では「その人だけのコーヒー」は作れない

コーヒーやコーヒーを取り囲む店舗がどんどん画一化され、人間味が失われていく一方で、鹿児島県に店舗を構える「ヴォアラ珈琲」のオーナーであり、日々コーヒーを焙煎している井ノ上達也さんは、育った家庭環境によって人間が全く違った個性を持つのと同様に、コーヒーも産地によって非常に異なった個性を持ち合わせていることから、人間とコーヒーは根本的には似ているとして次のように語りました

「焙煎中にコーヒー豆に向き合っていると、じゃじゃ馬な子がいたり、おとなしいけど頑固でなかなか心を開いてくれない(良い香りを出してくれない)子がいたりと様々です。でも、根気よく対話することで心を開いてくれるんです。」

井ノ上さんが人間と同じ性質を持ち合わせているコーヒーを画一化することは、我々自身を画一化させているのと同じなのではないかと述べたように、私たちはコーヒーから人間味を奪うだけでなく、私たち自身からも人間味を奪おうとしていたのかもしれません。

Steaming cup of camp coffee staying warm on edge of campfire.

↑画一的なコーヒーの先には、画一的な人生しかない

シリコンバレーでは人と人が集まれるカフェなどの場所の重要性が年々増していく中で、個人が経営するカフェが増え始めており、その背景には利潤や利便性を追求した結果、オンライン上でパソコン一台で仕事が完結するようになって、人と人との関係までもデジタル化されようとしているシリコンバレーだからこそ、人間味の大切さが再考されていることにあるようです。

シリコンバレーから車で40分くらい離れたサンフランシスコでは「Coffee Cultures」と呼ばれるコーヒーショップがオープンし、オーナーのジェイソン・ポール氏は“デジタルヘブン”と呼ばれるエリアでコーヒーを通じて再び人と人を繋げたいと次のように語りました

「サンフランシスコやシリコンバレーはもともとコーヒーのように多様性に富んだ街なんだ。けれど、テクノロジーが発展するのと同時に、人もコーヒーも多様性や人間味を失ってしまった。僕はそんな人たちにコーヒーで施しをしてやりたいんだよ。」

Two Caucasian girls sitting in the coffee shop

↑オンラインの時代だからこそ対面での出会いが重要になる、それは一杯のコーヒーから

大資本に支えられたチェーン店のような同じ店ばかりが世界中に増えており、カフェに限らず、秋葉原なども昔は電子機器を改造してくれたり、常連さんには割引をしたり人間味のある居心地の良い店がたくさんあったそうですが、近年では大手家電量販店などチェーン店の台頭により、それらの個人商店は姿を消し始め、秋葉原は無味乾燥で退屈な街になってしまったと言われます。

世界中でチェーン店が増え続ける一方で、失いかけていた人間味を取り戻そうと動き始める人も増加しており、どちらを選択するかは個人の自由なのかもしれませんが、少し勇気を出して、個人が経営するカフェで自分だけのコーヒーを探すのも悪くないのかもしれません。

  1. 【参考書籍】
  2. 榎本博明 「バラエティ番組化する人々 あなたのキャラは、『自分らしい』のか?」 (2014年、廣済堂出版)P.55
  3. 島村菜津「バール、コーヒー、イタリア人〜グローバル化もなんのその〜」(2007年、株式会社光文社)Kindle 2208
  4. 島村菜津「バール、コーヒー、イタリア人〜グローバル化もなんのその〜」(2007年、株式会社光文社)Kindle 741

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