失敗をひたすら隠す・東京、自己破産や倒産を何回したか自慢する全米一クリエイティブな街・ポートランド

[記事更新日]2017/03/24

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失敗への過度な恐怖心が、ひとをチャレンジから遠ざける

誰しも失敗して恥ずかしい思いをしたことがあると思います。そうした積み重ねによって、失敗した後の恐怖に過度に反応してしまいます。失敗に恐怖を抱かず、リスクをとってチャレンジできるためには、どうしたらいいのでしょうか?

「人間の中で最初に生まれた感情は『恐怖』」とマーケティング評論家のルディー和子氏が述べているように、私たちの遠い祖先が生きていた400万年前から、リスクを回避しようとする本能は私たちの心に深く根付いています。

もともとは危険を及ぼすものから離れさせるものが恐怖心ですが、命の危険にさらされているわけではない現代の私たちが恐怖を感じたときの体内の反応は、太古の人間が野生動物から必死で逃げるのと同じようなメカニズムになっていて、私たちは生命の危険など関係ない、例えばSNSでちょっとした失言をしてしまった記憶を思い起こすだけでも「逃げたくなる」という気持ちを抑えることができません。

A terrified young woman in an underground parking garage being followed by a sinister man ↑時代が変わっても、人間のDNAの中に組み込まれている恐怖は、生活の中で何度も何度も顔を出す

さらに私たちはインターネットなどから受け取る情報をもとに、自分が経験していないことにまで恐怖心をいだくようになってしまっており、失敗をして社会から反感を買わないよう、差しさわりのないように生きることを選ぶようになりがちですが、そういった習慣は自分の能力に壁を作ってしまいます。

自らを鍛えぬいてきた手法によって「走る哲学者」と呼ばれる元陸上選手の為末大氏は、オリンピックでの日本人のインタビューは似通っていて、日本人選手が負けると誰もが一様に謝罪を述べるのに対し、アメリカ人選手の場合は、それぞれが自分なりの敗戦理由と次の目標を語ると言い、未来に向けての目標よりも失敗を強調してしまうような日本のやり方は、失敗するかもしれないアイデアを試す場を避けるようになり、学びが少ないとして、次のように語りました

「学んだっていうことの価値を低く見すぎると、恐怖心の方が勝って挑戦しなくなる。」

rear view of business man walking alone on the beach in stormy weather, holding briefcase and looking at the sea. ↑情報がどんどん増え、どうでもいいことに関しても常に恐怖心を覚えてしまう現代

ダイバーシティを尊重するポートランドから学ぶ、挑戦と失敗とイノベーション

シリコンバレーでは失敗はトライアルであり、どれだけ失敗の経験を繰り返そうとも最終的に成功にたどり着くことが重要であると言われるように、アメリカでは日本とは対照的に失敗が受け入れられていますが、中でも「全米で最も住みたい街」の1位に選ばれて注目を集めているポートランドでは、起業家精神に溢れる若者たちが「自己破産や倒産を何回したか」ということを自慢しあっていると言います。

ポートランドには25歳から35歳までの若者が、片手に夢を、もう一方の手に自転車を手にして、アメリカ中から移住してくると言い、「ポートランド 世界で一番住みたい街をつくる」を執筆したポートランド市開発局・国際事業開発オフィサーの山崎満広氏によると、ポートランドの企業の80%以上は社員20名以下の中小企業なのだそうです。

Young man enjoys bicycle ride in the city while using his mobile phone and surfing the net ↑夢と自転車だけを持って若者が居住してくる街、ポートランド

ポートランドが起業したいと思う若者をひきつけるのは、ポートランドが「Keep Portland Weird(へんてこなままでいよう)」というスローガンを掲げ、一つの区域にライフステージの異なる人や、所得層が異なる人が混在して住んでいるために、ポートランドでは自分とは文化的背景の異なる人との出会いが容易であり、今まで出会ったことのなかった発想や、経験などを身近に感じることのできる環境に起因するのかもしれません。(2)

ポートランドの都市開発を研究をしている吹田良平氏は、著書「グリーンネイバーフッド」の中で、こういったポートランドの多様性を尊重する土壌は、60年代以降移り住んだヒッピー達のもたらしたリベラルな精神と、ポートランドで生まれたコロンビアやナイキをはじめとする巨大企業がもたらした経済発展が相まって、型にはまらない「多機能性」を重んじる都市開発が進んだことにあると述べています。

Group of hippie friends walk away. Vintage style ↑ヒッピーが持ってきた自由と企業が作り上げた経済成長が上手く融合された

こういった多機能性はイノベーションを起こす組織の重要な要素で、イギリスのジャーナリストであるジリアン・テッド氏は、イノベーションを起こし続けることができた組織は「サイロ化」を免れていたと述べていますが、「サイロ」というのは貯蔵庫のような窓もなく周りが見えない状態のことを指し、一つの組織が高度な専門性を備えた集団に細分化されていくことを「サイロ化」と言います。

一般的に大企業になるほどにフロアを部署で分けるなどして、異なる部署の人たちが行き交うことが減り、サイロ化が進んだ状況になってしまいがちで、人々は自分たちのサイロ外の専門組織の人たちの意見に触れることがなく、想定外の意見やアイデアを受け入れるのが難しくなってしまう傾向にあります。

逆に、ポートランドのように多様な人を自然と身近に感じるような環境を作ってサイロ化されていない組織は、色々な部門の人間同士が日常的にアイデアを交わすことがイノベーションに結びつき、大企業になってからも世界をリードし続けられるのです。(3)

Retro style image hipster guy standing next to a hipster girl flinging her red hair wildly ↑常に活気のある街は、「変態」を含めた自分たちと異なった人たちに対してウエルカム

弱みをさらけ出しチャレンジを加速させる

フェイスブックはこの5年間で月間アクティブユーザーを倍増し、その数は世界人口の25%に到達したそうですが、アメリカのメンロパークにあるフェイスブック本社のオフィスでは、大きな柱も仕切りもないワンフロアにCEOのマーク・ザッカーバーグ氏も含めた2,800人が机を並べて働いていて、そこかしこから聞こえる会話から社員の間に想定外のつながりが生まれているのだそうで、ブランド戦略担当のリンドセイ・ラッセル氏はCOOのシェリル・サンドバーグ氏が会議をしているガラス張りの会議室も、「ブラインドが下りたところを見たことがない」と語りました

Outdoor portrait of a handsome young man with glasses. ↑2,800人が行きかうことでイノベーションを生み続ける

サイバーセキュリティの分野の第一人者で、開発した生体認証技術をマイクロソフトに売却した経歴を持ち、日経ビジネスの「次代を創る100人」にも選出された齋藤ウィリアム浩幸氏は、日本には異質なものの集まりである「チーム」がなく、同質の人間が集まる「グループ」で組織は構成されてしまっていることを指摘します。

齋藤氏は著書「ザ・チーム」の中で、得意分野もバックグラウンドも違う異質な人たちが集まる「チーム」で力を発揮するには、それぞれの弱みを知っていることが大前提で、それは弱みをさらけ出しあうことで、自然と信頼感が生まれてくるからだとして次のようにも述べています。(4)

「亡くなる前には神のような存在と言われたジョブズは、短所の塊だった。松下幸之助も欠点をもっていたはずだし、それを隠したりはしなかったはずだ。本音でお互いの弱点や失敗談を話すことによって、自然に信頼感が生まれてくる。」

Portrait of young, relaxed and fun business team ↑どんな凄いサービスを生み出す組織でも、実は弱点だらけ

そう考えると、多様な人材が隣り合って暮らし、多機能化が進んだポートランドは街全体にサイロがない、いわばチームのようなものなのといえるでしょう。

というのも、ポートランド市民は、若者から老人までがそれぞれの視点で街づくりに一役買うことができるようなプロセスで街づくりが1970年代から続けられており、当時の市長、ニール・ゴールドシュミットの指揮のもと作られた、町内会のような現場の有志が集まる組織「ネイバーフッド・アソシエーション」と、それらを地域で束ねた「地域連合」、さらにその地域連合を統括する「ネイバーフッド担当局」というコミュニケーションのシステムで、市と住民が確実につながるパイプラインが機能しています。
Group of friend eating outdoors, focus on foregrounds ↑ポートランドは若者から老人までしっかりと交わるプロセスが出来ている

ポートランド市民はネイバーフッド担当局が主催するワークショップに参加して、市の予算の決め方、予算の規模などといった、かなり行政に踏み込んだ説明を受けることも可能で、このようなワークショップで知識を得た市民からの建設的な意見もすぐに取り込まれるようになっており、このようなサイクルを経て培われたポートランドの街づくりは、行政・市民・公的機関・事業者の4者の意見が街のあちこちに感じられるものになっています。

「全米で最も環境に優しい都市」や、「ベストデザイン都市」などに選ばれるほどに多方面で注目を集めるポートランドは、異質な個々の人が垣根なく交流することでお互いに対して寛容になり、弱みをも見せ合うようになって信頼感が生み出され、市民それぞれが失敗をむやみに恐れずに積極性を発揮することができた成果といえるのではないでしょうか。

Portland, Oregon, USA - December 3, 2011: The Trimet MAX light rail runs through downtown Portland at night while pedestrians cross the street. ↑街の変化一つ一つに自分たちの関与が感じられる街

グーグルやナイキの広告などを手がけ、ポートランドに本社を置くワイデンアンドケネディー社の壁には、「Fail harder」(もっとすごい失敗をしろ)という言葉が大きく描かれているそうですが、ポートランドの人々のように私たちも自分とは異なる意見を知れば知るほど、大きな心で前向きに生きられるようになるのではないでしょうか。

お隣さんに出会っても会話することすらなくなり、気の合う人とだけでまとまって生活できるようになってしまった現代社会では、価値観は凝り固まり、広い視野で見ればたいしたことないリスクや失敗にまで、必要以上に大きな恐怖を抱いてしまうのかもしれません。

いつもと違うカフェを試したり、いつもと違う道を歩いてみたり、できるだけ多くの人と出会うような環境を意識して自分のサイロを取り払うだけで、自分の行動を阻んでいた不安や恐怖など「つまらないものだ」とあしらうことができるようになるものなのです。

  1. 参考書籍
  2. 山崎満広『ポートランド 世界で一番住みたい街を作る』(学芸出版社、2016)p.111- 167
  3. 吹田良平『グリーンネイバーフッドー米国ポートランドにみる環境先進都市のつくりかたとつかいかた』(繊研新聞社、2010)p. 8-18
  4. ジリアン・テッド『サイロ・エフェクト 高度専門家社会の罠』(文藝春秋、2016)Kindle
  5. 齋藤ウィリアム浩幸『ザ・チーム 日本の一番大きな問題を解く』(日系BP社、2012)p.126-205

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